朝4時過ぎに目覚めると雨は上がっている。薄暮で星は既になく晴れているのか曇っているのかもよくわからない中とにかく食事を済ませて出発の準備をした。
5時40分にテント場を出発、広河原山荘の横から登山道に入る。空は晴れているようだが薄暗い樹林の中の急登をこなし分岐から大樺沢ルートに入る。水量の豊富な大樺沢本流を左に見ながら登ると北岳が姿を見せた。空は薄曇りながらも晴れている。
分岐から大樺沢ルートへ |
水量豊富な大樺沢 |
大樺沢にて北岳が現れる。登山道には支流から流れ出た倒木が散乱している所も |
6時20分に最初の仮設橋を渡り大樺沢右岸に入る。左岸の崩落地を迂回するためだが、北岳を眺めながら、植物の写真を撮りながら気持ち良く登っていく。7時に2番目の仮設橋を渡り左岸に戻る。暫らく登ると雪渓の末端に出る。ここからこの雪渓最上部の八本歯ノコルまで一直線に見える。
最初の仮設橋で右岸へ |
左岸の崩落地 |
急な沢を木橋で渡る。 |
2番目の仮設橋で右岸に戻る。 |
大樺沢雪渓末端から見上げる左俣の雪渓と北岳 |
暫らく夏道を歩いたところでアイゼンを付けるが、このとき予想してなかった登山者が下って来るのが見えた。やはり山が好きな人が居るものだ。この登山者、当方がアイゼンを付け終わる頃にはダブルストックで軽快に降りて来て、この先の情報を教えてくれた。雪渓から夏道に上がればトラバース道の雪渓も雪切りがあり北岳山荘までアイゼン不要、キタダケソウはトラバース道で満開で、ハクサンイチゲを探す方が難しいと嬉しくなる情報を伝えてくれた。
雪渓上には落石が残っている。北岳バットレス側の山際の方が安全だと判断してそちら側を登っていった。
アイゼン取付け地点、中央黒点が登山者 |
二俣から鳳凰山方面 |
二俣から見上げる左俣と右俣、雪渓上には落石が多く残っており、雪渓の北岳側を登った。 |
二俣を過ぎてかなり登ったところで落石がこちらに向かって勢いよく迫ってきているのに気付いた。直撃を避けるべき両手でピッケルを持ち身構えたが、サッカーボールほどの落石は当方の左横10m先を勢いよく転げていき二俣近くまで落ちていったようだった。登りは落石に気付きやすいが、下りだと特にソロの場合は気付くのに遅れる場合があり、登山者の少ないときは下りには使わないのが無難だ。
途中大きな岩が雪渓上に止まっていた。近くまで登るとその岩の周囲の雪が解けて不安定な状態で止まっているように見えた。その岩は滑り落ちているようでトレースが残っているし、途中止まっていた場所であろうか、大きな窪みも残っていた。この岩がこの先落ちるようなことがあるのか不気味だ。
雪渓上部のこのあたりは枝沢が多いが、八本歯のコルを目標に雪渓を登っていく。濃いガスで視界が悪いときは要注意だ。
更に登っていくと落石が列をなして並んでいる。バットレスからの落石ですぐに転がり落ちるような気配はないがこの先二俣への落石の卵になるのではないかと思う。
雪渓上から見る北岳、雪渓上の左手には大きな岩が残る |
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雪渓上の大きな岩 |
岩の周囲は解けて不安定に見える |
大きな岩が滑ったトレースが残る |
岩が留まっていた跡とみられる窪み |
雪渓上部で見る北岳、枝沢が多く濃いガスの時は道間違いに要注意 |
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雪渓上の落石の列は落石の卵? |
トレース、大きな岩はこのあたりも滑った |
落石の列を迂回してピンクのリボンが見える尾根へ向かう。この尾根上に夏道かと思い最後の頑張り処と気合を入れて登っていったが、さらに左の尾根の先にピンクのリボンが見えた。早く夏道に上がって休みたかったが、そう簡単にはことは運ばない。夏道は更に上の尾根でそこまで急傾斜の雪渓を登る。このころよりバットレスにもガスがかかり始めた。
雪渓上部、夏道は左に見える尾根 |
雪渓から見上げるバットレスにもガス |
夏道への取り付き地点 |
上がった夏道から雪渓を見る |
9時40分に夏道に上がった。登り終えて体は熱いのに、足の爪先が冬のように冷たく感じた。靴に水が入ったのかと思ったがそうではなかった。昨晩の雨のせいか、柔らかな雪渓を蹴りこんだ時の氷の粒が靴の周りについて靴をアイシングしていたのだった。誰も通過はしないと登山道の真ん中に座り込んでアイゼンを外して靴の周りの氷を取り除くと足先の冷たさは一気に解消していった。ここで昼食用のパンを食べ休憩した。ここまで長い休憩することなく登ってきたが、休憩できる場所のない雪渓上では歩きながらでも給水できるハイドレーションは必携だと思う。
ここから丸木の梯子を昇っていくが、一つの梯子を昇るたびに息が切れてしまう。雪渓を休みなく登ったこととエネルギー補給の遅れで疲れが回復しきれていない。キバナシャクナゲやバットレスを眺めながらゆっくりと登って11時前に八本歯のコルに着いた。
八本歯のコルに続く丸木の階段 |
夏道から見上げるバットレス |
バットレスのオーバーハングした断崖 |
八本歯のコルから八本歯の頭 |
バットレスや間ノ岳もガスがかかっており疲れもあるため八本歯の頭はパスしてゆっくりとしたペースでトラバース分岐を目指す。途中初めて間ノ岳がその雄大な姿を見せてくれた。
尾根上に付けられた丸木の梯子を登っていく |
初めて見せた間ノ岳の雄大な姿 |
ようやくトラバース分岐に到着 |
11時40分にトラバース分岐に着いたところで人の声がした。小屋番さん達が道直しとキタダケソウの開花状況の確認に来ていたのだった。小屋番さんに道を先に譲りそのあとから北岳山荘へのトラバース道に入った。入って暫らくするとあたり一面のキタダケソウの花で、二俣で出会った登山者が言った通りハクサンイチゲを探す方が難しい。来て良かった。キタダケソウの写真を撮りながら進む中で見たかったチョウノスケソウも咲いており感激!雪切りされている雪渓を渡ると不思議にキタダケソウを見なくなった。
(花の写真はこちら)
斜面に咲きほこるキタダケソウ |
綺麗にさいているキタダケソウ |
チョウノスケソウ |
雪渓は雪きりされていて安心して通過 |
12時45分に稜線分岐に着いて北岳山荘を目指す。途中植生保護柵の横を通過、ニホンジカの食害を防ぐために設置されている柵だが、その中にキタダケソウが咲いているのを見て驚いた。以前はこのあたりにもキタダケソウが咲いていたのであればやはりシカの食害は深刻な問題だ。
植生保護柵 |
保護柵の中のキタダケソウ |
八本歯側の登山道から見た北岳 |
雪に囲まれた北岳山荘に到着 |
13時45分に北岳山荘に到着、夕食弁当付きで宿泊を頼んだ。小屋朝食はその時間に縛られるため、今回は食料を持参してきている。自炊室は片付いていないので火が使用できる2階の冬季小屋になっている部屋と東側の外テーブルを案内してくれた。間ノ岳方面もガスがかかっておりもう出かけることはないと手続きを済ませて完全に休憩モードに入って東側の外テーブルでビールも飲んだ。
この日の同宿者は一人、早朝に夜叉神峠の駐車場を出発して広河原から北岳を越してこの山荘にやって来たとのこと、なおかつテント泊縦走に準じた水5Lにシュラフなどを背負って、凄い健脚の方でオベリスクのてっぺんにも立ったことがあるという。世の中広い。もう一つ驚いたのが寝具無し素泊まり。南アルプスのローカルルールのようだが、北アルプスでも採用されていれば、紅葉の涸沢で一つの布団に3人を避けてマイ寝袋で休むことが出来るのだが、いや、寝袋だけを背負っていく小屋泊まりの人が増えて却って山小屋が人で溢れかえって混雑するのかも?
夕食は煮魚とポテトサラダのおかずに味噌汁、おいしくいただけた。明日の天気は今日と同じで朝のうちはいい予報に日の出と富士山が見れる場所を小屋番さんに聞いたところ、「この山荘の部屋から見れます。」いろいろ調べてきたつもりだったが、少し恥ずかしかった。
同宿者は明日は4時前に起きて朝食前に間ノ岳をピストンするという。19時半に部屋の電気を消すとすぐに眠り込んだ。