曇りのち雨
4時半に目覚めた。曇っているようで冷え込みは弱く、水場の蛇口も凍っていなかった。隣のテントでは既に支度を始めており、暗いうちに出発していった。残る2名も早々に後を追っていった。当方は帰るだけなので焦ることなく支度を進め、6時半に真砂沢ロッジを出発した。曇っているが山並みにガスはかかってなく稜線がはっきりと見えた。
帰りの剱沢の登りでは来た時の下りでは見なかった風景が見え、池の平山にいた登山者が名を教えてくれたナムの滝も認識できた。
ナムの滝を過ぎて次の雪渓の末端で登山者がアイゼンを着けはじめていたので、雪渓取り付き点はまだ上ですよと言うもアイゼンを付ける作業を止めなかったようだ。少し進んだところではっきりした踏み跡の高巻き道が見えた。来た時には雪渓脇を通って見たスノーブリッジのあった場所だ。高巻き道に登ると雪渓全体が見渡せ、雪渓に穴が開き始めているのも見えた。あの登山者がその穴の方に近づいてきていたので咄嗟に「右前方に穴」と叫んだ。3回目の叫びに登山者も穴に気づいたようで、左へ向きを変え雪渓の中央部へ回りこんで何事もなくそのまま登り続けて行った。
この時期の雪渓は日々の融雪で崩壊に進んでおり、雪渓の通行に際しては山小屋で最新の登山道情報を確認してそれに従って行動する必要がある。地図(山と高原地図『剱・立山』2009)で見ると雪渓歩きはナムの滝の上部からになっており、この登山者はこうした地図を頼りにしたのかもしれないが、これは雪渓が安定している場合である。融雪が進んだ雪渓の下がどうなっているのか登山者の目には見えない。そこで一般登山者は山小屋の長い経験に基づいた指導を頼りにして従うことが最善の行動となる。ただこれで100%の安全が確保されたわけではなく、この先の安全は登山者の自己判断と自己責任に委ねられる。
7時半に長次郎谷出合でアイゼンを着け雪渓に上がる。曇りで剱沢の紅葉は映えないが、山にはガスがかかることなくそこそこの景色を楽しみながら登っていった。
この雪渓を歩かないで剱沢右岸の夏道を登っていく登山者がいた。小生には歩きやすく時間短縮となる雪渓だが、この雪渓を歩かないのもこの人の自己判断だ。
途中、雪渓の真ん中でドローンを飛ばす4人組の登山者がいた。許可を得てやっていることだろうし邪魔にならないようにそっと通過していった。
8時半過ぎに雪渓上端近くで夏道に上り休憩。ドローンを飛ばしていた4人組も登ってきた。風格からして本格的に山をやっているような4人組はアイゼンを外してさっさと登山道を登っていた。
往きは吸い込まれるように下った剱沢、帰りは這い上がっていくような感覚で登っていった。
9時半過ぎに剱沢小屋に到着、来た時はガスに隠れていた剱岳がはっきりと望め写真に収めた。
剣御前小舎までの登りはこれで3回目だが、今回も長い登りがとてもきつかった。ここがいつも最後の踏ん張りどころとなる。
11時に剱御前小舎に到着。雨はまだ降り始めていない。雨の降り出す前に一気に室堂までとも思ったが、疲れと腹ごしらえのため大休止でカレーを頂いた。
11時半に剱御前小舎を出発して暫くして勢いよく下る団体に道を譲った。剱沢雪渓の上でドローンを飛ばしていた4人組で大きなザックを背負っているが下りのスピードが半端なく早く、あっという間に雷鳥坂の潅木の陰に消えていった。
雷鳥坂を室堂の高さぐらいに下ったところで雨が降り始めた。本降りになりそうなのでレインウェアを纏って再出発した時にドローン4人組の一行が室堂へ登っていくのが見えた。ドローンと凄い脚力で結びつくのは田中陽希さんのグレートトラバースの撮影スタッフなんだけど、世間は広いので別の人たちなんだろう。
浄土橋の手前辺りから雨に加えて物凄い風が吹き始めた。室堂が風の吹きぬける場所だからなのかは判らないが、室堂への最後の登りでは時折体をもって行かれそうな突風に歩を止めながらも何とかミクリガ池温泉に駆け込んだ。温泉で汗を流すが、山行の疲れと暴風雨から開放されてまさに極楽の境地だった。
室堂から美女平までのバスの中ですっかり眠り込んでしまった。疲れが溜まっているようでこの日は高速に入ってSAで仮眠する予定でいたが、立山駅の駐車場で車中泊をして帰ることにした。
10月7日 曇り
この日は三連休の初日。昨夜の雨は上がっており、立山駅前の駐車場には夜のうちから登山者の車が増えて早朝には満車状態になっていたので邪魔にならないように早々に駐車場を出て帰途についた。
登山を終えて
遠征登山は3年続けて剱岳とその周辺になった。そこには期待通りの感動があり、もっと剱岳に近づいてみたいという思いはあるが、そこはもうバリエーションルートの世界。もっと若ければ挑戦したと思うが、剱は今回の感動で大満足。次の遠征は3,000m峰攻略で残っている塩見岳に挑んでみたい。