2012年北アルプス山行記録−穂高連峰登山(後立山連峰縦走はこちら

2.涸沢、岳沢をベースキャンプとした穂高連峰登山(山行計画はこちら
10月2日
上高地
→徳本峠
3日
霞沢岳
→徳沢
4日
徳沢
→涸沢
5日
北穂高岳
56のコル
6日
屏風の耳
→徳沢
7日
徳沢
→岳沢
8日
天狗のコル
奥穂高周回
9日
岳沢
→上高地
10月1日(月)
晴れ
出発
昼過ぎに北九州市を出発、高速を安曇野インターまでETC夜間半額割引で走行。途中、恵那峡SAで食事と仮眠を取った。ここは大型車駐車場から離れた位置にも駐車スペースがあり、そこで静かに仮眠できた。

10月2日(火)
曇り

沢渡第二駐車場

上高地

徳本峠キャンプ地
 朝4時に目覚めて出発。塩尻ICで下りて国道沿いにあるすき家で朝定食。道の駅風穴の里で時間調整後登山の支度を整え、沢渡第二駐車場に車を止めた。
 11時過ぎに上高地到着し、水はキャメルパックとペットボトルの計3Lの満水に補給後登山届けを提出して徳本峠15時到着を目標に出発。河童橋から先は自分にとって未踏ルートでここからの道も楽しみだった。
 12時過ぎに明神に到着。ここでザックをデポし明神から岳沢に行く道などを確認した後出発し、白沢出合を右に曲がって徳本峠に向かう。最初は平坦な林道だがその道が細くなたところから徐々に登り、つづらの道に続いた。最後の水場付近で道が少し荒れていたが問題はなく、上高地で水を満水に補給しており、水は補給せずに通過した。初日と言うこともあり、あまりきついと感じることなく予定の15時に徳本峠に到着できた。
 徳本峠小屋は小屋の前側は積雪から倒壊を防ぐようないかにも山小屋といった感じだが、奥側に新築の建屋がある。テント場は小屋の前にあり、きれいに整地されていた。この日のテントは4張りだった。
 テント設営後直ぐ上にある展望台に行ってみた。西穂高から天狗の頭付近は見渡せたが、奥穂高岳辺りのガスが取れることは無かった。
    
   左:徳本峠小屋(手前が幕営地) 右:展望台からの穂高連峰

 小さな山小屋ではテン泊者への食事提供はない。この日は尾西の五目ご飯に即席お吸い物、ソーセージとデザートにオレンジの夕食で過ごした。
 夕食後に歯磨き剤を少し使って歯を磨く。体を拭いたウエットティッシュやオレンジの皮を入れた生ゴミ用ビニル袋に吐き出し、ゆすぎはしない。慣れれば違和感はない。ビニル袋は空気を抜き漏れないようにきつく縛って生ゴミ用レジ袋に溜めていく。朝は歯磨きはせず、朝食後歯磨きガムで済ましている。これを縦走期間中続けている。

10月3日(水)
曇り

徳本峠キャンプ地

霞沢岳

徳本峠キャンプ地

徳沢キャンプ地

パノラマ写真
 K2ピーク

 朝4時半に目覚めた。パンにコーヒーの朝食を取っていると隣のテントの二人組が暗い中、霞沢岳に向かって出発していった。5時半に薄暗い中ヘッドランプを点けて出発、直ぐ上にある展望台で穂高連峰を眺めた。雲は薄く晴れていく予感で先を急いだ。7時に木に赤ペンキでP2とかかれた場所を通過、紅葉の進んだ稜線のアップダウンを繰り返して安曇野側が大きく崩れた稜線に出た。この崩れ方は半端でない。この辺りから目指す霞沢岳の稜線がガスの中見え隠れする。K1への急な登りになって穂高連峰が見えた。天気は良くなっているようでK1へ急いだ。
    
   左:5時半展望台からの眺め  右:安曇野側が大きく崩れている稜線

    
   左:縦走路から目指すK1ピーク   右:雲間に見えた穂高連峰

 8時半前に見晴らしのきくピークに到着し、先行していた登山者がK1ピークと教えてくれた。焼岳から穂高連峰を一望できるが、日の出る北東側の常念山脈方面は雲で見えず、穂高連峰に日は差していない。笠ヶ岳方面の西側は晴れており、この青空が広がっていく気配だった。K2まで行くと青空も広がり、予想通り穂高連峰に日が差していた。今回の山行のメインイベントの岳沢を起点とした奥穂高周回コースも遠く眺めることができた。このころより安曇野側から湧き上がってくるガスが多くなり、上高地側へ流れこんでいくように見えた。
 9時過ぎに霞沢岳到着。この時は既に西穂高周辺は雲で見えなくなっていた。上空は青空が広がっておりガスの切れるのを暫く待ったが雲が取れる気配は無く、パノラマ写真は取れなかった。
  
   K1ピークにて、左は焼岳、中央が笠ヶ岳、右に西穂から奥穂、前穂へと続く

    
    左:奥穂高岳(望遠撮影)  右:霞沢岳からの穂高連峰

 9時半過ぎに霞沢岳を出発、K2からK1ピークへと戻るが、この時はガスで展望はなくなっていた。稜線ではシラタマノキやコケモモの実を見た。この時期は実のなっている植物は目に留まる。
    
    左:シラタマノキの実   右:コケモモの実

 12時過ぎに徳本峠に帰りついた。昼はラーメンを作る予定だったけれど小屋で軽食提供の時間だったのでカレーライスを頂いた。
 テント撤収後13時半より下山を始め、最終水場で水を満タンにして15時半に白沢出会で休憩後、16時半に徳沢園のキャンプ場に到着した。テント申し込み時に夕食提供可と判り早速申し込んだ。キャンプ場は広々とした草地で水場とトイレがきれいに整っており、さすが上高地といった感じ。この日のテント数は半分までは埋まってないようだった。
 18時からの夕食で合い席となったなった男性登山者が徳沢ロッヂで入浴してきたと話してくれた。この日は入浴を予定してなくて入らなかったが、涸沢からの帰りのキャンプ地は、夕食入浴ありのこの徳沢に決めた。

10月4日(木)
晴れ/曇り一時雨

徳沢キャンプ地

横尾

涸沢キャンプ地

パノラマ写真
 涸沢テント場

 朝方は雨が降っていた。テントの中で暫く様子を見てたところ雨は止んでくれた。パンにコーヒーで朝食を済ませテントを撤収。7時過ぎに涸沢に向けて出発した。広い河原の向うに屏風の山を見るが、明神岳や前穂北尾根にはガスがかかって見えない。8時に横尾に着いて暫し休憩後、横尾橋を渡り涸沢を目指す。
 登山道の横尾谷は迫力のある屏風岩を大きく回り込んでいる。この物凄い絶壁の屏風岩を暫く見ていた。この道を通る人は誰もが登ってみたいと思うんだろうが、実際に登る登らないは別にして、その思いを持ち続ける人は僅かで、自分を含めて多くの人が自分には無理だとその思いを諦めてしまうんだろうなと思った。
    
   左:横尾への道から屏風の山  右:正面からの屏風岩

 8時半に本谷橋を渡り、また休憩する。ここから登山道はやや急になり、写真撮影を兼ねた休憩を取りながら登っていく。まず、前穂の北尾根が見え始め、奥穂が見えるころは周囲の紅葉も色合いを深めていた。
    
   左:登山道からの前穂高岳北尾根  右:登山道からの奥穂高岳

    
   左:樹林帯を抜けでた付近での眺め  右:涸沢から下り方面の眺め

 涸沢ヒュッテに立ち寄って水場やトイレなどを確認し11時半にテント場に到着。ゴロゴロした岩の隙間の整地された場所にテントを張るんだが、良い場所と思われるところは簡単には見つからない。暫くうろうろして、テント前室辺りに少し岩が出っ張る程度の場所にテントを張った。このころからまた雲が広がり始めていた。
 テントを張り終えて涸沢小屋に登り昼食にカレーを頂き、テラスから前穂北尾根を眺め56のコルへの道を探すが分からない。一般道でないため標識はないのは承知だが、踏み跡も見えない。そのうち雨がポツリポツリ降り始めた。テントの脇にシュラフを干していたので急いで駆け下った。雨は直ぐに止んだが、山頂にはガスが掛かり始めておりこの日の56のコル行きは諦めた。涸沢ヒュッテで夕食を申し込み、下見に行こうとしたところ、小雨が降り始めテントに戻り待機となった。
  
   涸沢小屋テラスからのパノラマ展望

 テントの中で翌日の山を考えた。雨でなければ北穂高岳に登り、ガスの掛かるような天気であればルートの見えない56のコルは諦め涸沢岳への周回とする。見晴らしの利く天気であれば涸沢に戻り午後より56のコルへと決めた。
 雨のあと、テントがしっとり濡れている。周りのテントは水を弾いて濡れていない。同じメーカーのテントも見たが、撥水が損なわれているのは自分のテントだけ。去年の夏にボランティア活動で2週間テントを張りっぱなしで使った後なにもしていなかった。テントのメンテナンスとはこのことかと認識できた。
 夕食までの時間にヒュッテの裏の池ノ平から雪渓まで行ったが、56のコルへの道らしき踏み跡は分からない。パノラマコースに戻りザイテングラートに向けて少し登って56のコル方面を窺うが、結局判らないままだった。

10月5日(金)
曇り/晴れ

涸沢キャンプ地

北穂高岳

涸沢キャンプ地

56のコル

涸沢キャンプ地

パノラマ写真
 北穂高岳
 北穂南稜
 涸沢テント場

※5.6のコルへは一般道はありません。バリエーションルートです。
 4時過ぎに目覚めた。空は曇っているが雨は無いのでラーメンを食べて涸沢ヒュッテのトイレへ、まだ小屋の朝食が終わってないのか心配したトイレ渋滞は無かった。
 5時半にヘルメットにヘッドランプをつけサブザックを背に出発。涸沢小屋から北穂南稜の登山道に入り、暫くして日の出を迎えた。山頂付近はガスのままだが蝶ヶ岳方面から昇る朝日に涸沢が赤く染まってきれいだった。登山道は急所には鎖や梯子が整備されており、背中が軽い分だけ快調に登れた。
  
   北穂南稜登山路からの朝日のあたる涸沢

 北穂南峰直下の分岐近くまで登ってくるともうガスの中で展望はないが、時折晴れている涸沢が見えた。ガスは山頂部だけで上空は晴れているようだった。
 8時前に北穂高岳山頂に到着、ガスで展望は全く無く、寒い。北穂高小屋の温度計は3℃、ここで熱いコーヒーをいただき、ガスが晴れるのを待った。9時ぐらいから前穂北尾根が見え始めるなど、飛騨側から流れてくるガスが弱まる気配を見せた。ガスが濃淡を繰り返す中、ガスの切れ間に北穂南峰に登山者も見えた。
    
   左:ガスの中から晴れている涸沢 右:北穂高岳山頂にて南峰に登山者

 9時半前にガスが一気に取れて槍ヶ岳から常念山脈、穂高連峰までパノラマが広がった。笠ヶ岳方面に少しガスは残るが、1時間半も待った甲斐があった。写真を撮り、次は56のコルだと涸沢へ下り始めた。途中、カメラの望遠で56のコルへの踏み跡を確認したり、紅葉越しに北尾根を眺めるなど、気分良く下って涸沢小屋に着いた。小屋でこの日の夕食を申し込み、56のコルへ行くので夕食は遅い時間帯にしてもらった。最初は56のコルへは道がないので行けないと言われたが、北穂からの下りで見た状況を話すと、『十分に気をつけて、ただしコルからはX峰やY峰には登らないで』と、注意された。
  
   ガスの晴れた北穂山頂から槍ヶ岳方面、右は常念岳

  
   下山路から見た涸沢カールと前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳

  
   下山路から見た前穂高岳北尾根

 テントに戻りサブサックに行動食を補充、涸沢ヒュッテで昼食後、12時過ぎに56のコルに向けて出発した。雪渓脇の大きな岩のゴーロ帯を通過、この辺りに踏み跡はない。北穂下山時に見た草付きを目印に更に進んで漸く踏み跡に出くわした。
  
   涸沢の雪渓脇から見た北穂高岳と右に延びる東稜、右下に涸沢ヒュッテ

 踏み跡は左に曲がって高度を上げていくが、ガレ場というよりゴロ場という言葉が相応しいようなゴロゴロした大きな岩が続く。踏み跡は途中で何回か枝分かれしている。どれを選んでも先で合流するはずだと安易に真っ直ぐに進んだが、この考えが大間違い。踏み跡は途中で消えてその先は大きな岩が重なった不安定そうな急斜面。これは無理だと周囲を見渡すと斜め上のほうに別の踏み跡が見えた。あと戻りするよりもトラバースのほうが無難だと判断し、慎重にトラバースしてその踏み跡を辿るが、足元の悪い急傾斜の緊張する登りが続く。急なガレ場では落石があれば踏み跡は消えるし、石が落ちた跡に急斜面が現れるのも当然だ。踏み跡と言っても安易に辿れず、落石に遭っても咄嗟に避けることも難しいような足場の悪さに沢の中央部はなるべく避けるようにその先を慎重に見極め落石に注意しながら登りつめ、ようやくコル直下のザレた急斜面のつづら道に出た。ここで初めて下山してくる登山者と出会った。奥又白経由でテントを担いできた男性、いかにも山男という風格があった。
 コルに着いて行動食を食べながら奥穂高岳から北穂高岳の山並みに見入る。ここから見る奥穂高岳はひときわでかいし、今日登って下った北穂高岳南稜ルートは正面から見る形となり凄い直登ルートに見える。逆側の斜面には奥又白池から徳沢、大滝山方面の眺め、山頂側と麓側の違いなんだけれど実に対照的だ。この両者を切り分けているX峰やY峰へはアルパインの世界、将来にも登ることはないだろう。
  
   5.6のコルから見た奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳

  
   5.6のコルから見た徳沢方面

     
   左:5.6のコルから見た奥又白池(望遠)  右:5.6のコルから見たX峰

 涸沢側に目を移すと先ほどの登山者が20分あまりの間に既に雪渓の近くまで下っているのがカメラの望遠で確認できた。この急なガレ場をテントを背負っての直の下降、山の熟練者の凄さを感じた。穂高岳辺りに雲も掛かり始め涸沢へと下るが、自分には不安定な急斜面のイメージが残っており直下降は無理、登ってきたときの草つきやハイマツなどを思い出しながらその踏み跡を慎重に下った。15時過ぎに無事に涸沢に到着、雑誌記事で知った56のコルだが、初めてのバリエーションルートにその厳しさ、困難さを実感した。
    
   左:56のコルから涸沢へ下り、赤丸位置に登山者 右:望遠拡大

 この日の涸沢のテント場はそんなには混んでいない。明日の連休初日はこの何倍ものテントで混むんだろうが、この夜も落ち着いた雰囲気だった。

10月6日(土)
曇り

涸沢キャンプ地

屏風の耳

徳沢キャンプ場

パノラマ写真
 屏風の耳
 朝は晴れており、6時にはモルゲンロートに赤く染まった涸沢岳が見えた。この日はパノラマ新道を徳沢まで下るだけなので出発者で混雑する時間帯をのんびりと過ごした。
 8時半に涸沢ヒュッテを出発、このころにはもう曇って青空は無いが、山頂にガスが掛かるという天気でもなかった。涸沢の景色を振り返りながら進んでいくと槍ヶ岳の穂先までもが見えてくる素晴らしい眺めだ。晴れて青空であれば紅葉ももっと映えるんだろうが、贅沢は言えない。パノラマ新道を登りきって屏風の分岐までの尾根道で紅葉が殊に見事だった。
    
   左:モルゲンロートに染まる涸沢岳  右:パノラマ新道の紅葉

  
   パノラマ新道より見た奥穂高岳から槍ヶ岳

 9時半に分岐に到着、ザックをデポして空身で屏風の耳に向かった。屏風の耳は小さな二つのピークに分かれており、合わせて10人を超す登山者がいた。この先の屏風の頭にも数人の登山者が見えたが、屏風の耳で登山者が居なくなるのを待ってパノラマ撮影後、分岐に戻った。
 11時より分岐を下る。この先は下りだけなのでのんびりと歩いていると、数人の登山者がザックを降ろして集まっていた。高齢の女性登山者が転倒し足首を骨折した現場だった。女性は痛がる様子は無く既に足首は副木と包帯で固定する応急処置が済んで救助を待っているところだった。救助隊が来るまで5人の男性登山者がこの場に残るようで自分に出来ることはもう無いと思ったが、一昨日の急な雨のこともあり念のためのエマージェンシーシートを渡してこの場を離れた。
 暫く下った急な登山道でまた登山者が集まっていた。下山する男性登山者が転倒し顔面から出血した現場、こちらもタオルで止血をしてその上からテープで固定する応急処置が済んだところだった。
 二つの現場とも事故に遭遇した登山者が最適な処置を実施していると思った。これは穂高を目指す登山者のレベルが高いのではなく、登山者の常識レベルなんだと。自分も登山での骨折を経験してファーストエイドキットを充実させていたが、自分のためだけでなく事故に遭遇したときにも対処できるように普段から心がけておきたい。

 12時半過ぎに中畠新道分岐を通過し、14時前に徳沢園のキャンプ地に着いた。この時間キャンプ地は既に半分近くテントで埋まっていたが、以降急激に増えることはなく、7,8分の混みようだった。ここの売店で朝食用のパンを6個買い込んだ。持参したラーメンはまだ残っていたが、朝はパンにコーヒーが良いと思った。売店でパンの品数が揃っているのも上高地一帯ならではと思う。
 夕食前に入浴をと徳沢ロッジに行ったところ、宿泊者の入浴で大混雑中、空くのは宿泊者の夕食が始まる5時半以降ということでそれまでテントで待った。徳沢ロッジで久しぶりのお風呂、有難いことに石鹸が置いてあり使えた。シャンプーは無かったのでこの石鹸で頭を洗ったのが良くなかった。自分でも判るほど石鹸の匂いが付いてしまい、徳沢園での夕食中気になって仕方なかった。

10月7日(日)
晴れ/曇り

徳沢キャンプ場

明神

岳沢キャンプ地
 朝方はまた小雨、コーヒーのお湯を沸かすのが煩わしかったので売店にある自販機の缶コーヒーと昨日買ったパンで朝食を済ませた。雨も上がりテントを撤収して8時前に出発したが、多くのテントが人の気配なくそのまま残っている。おそらく混雑する涸沢を避けてここを拠点に涸沢まで行ってパノラマコースで紅葉を楽しむ人たちかなとも思った。
 出発して程なく青空も広がり明神方面も望め、天気は急速に回復しているようだった。
    
   左:朝出発前の徳沢キャンプ地  右:青空が見える明神方面

 明神橋を渡って左に曲がり岳沢への分岐を目指した。ここからの遊歩道で出会うのは上高地を散策するハイカーばかりで、自分もその中に混じって湿原の写真を撮ったりとのんびりと歩いた。9時半前に岳沢への分岐に着いて休憩していると若い男性登山者が岳沢から下ってきて横尾への道を聞かれた。聞けば奥穂高岳一帯は積雪で、経験が無く自信の無い人は無理しないほうが良いと言われ奥穂登山は諦めたが、涸沢の紅葉が見たいのでと。標準コースタイムで6時間であり、涸沢の紅葉は今最高潮ですよと彼を見送った。今朝方の雨は山頂では雪になるほど冷え込んできたということで、明日の天気に不安はあるが、岳沢小屋に向かった。
  
   澄んだ水を湛える岳沢湿原

 岳沢への道は3年前に下ったが登るのは初めて。休憩場所に風穴を目標に登りはじめたが、風穴は見逃して通過してしまった。この道にはハイカーに配慮して丸い看板が設置してあり、小屋までのカウントダウンNoと高度が記されていて有難い。No5で休憩をして小屋を目指した。
 12時前に岳沢小屋に到着、小屋の前には今朝の奥穂高方面の積雪情報の掲示が出ていた。明日の天気次第では計画通りの山行ができないかもしれないが、受付でテント2泊を申し込んだ。テント場は岳沢を渡った重太郎新道沿いにあり、小屋に近い下段は埋まっていたが、中段位置ぐらいにテントを張れた。小屋に戻り昼食に細麺の揚げ焼きそばと生ビールを頼んだ。生ビールは岳沢小屋の今シーズンの最後の一杯だった。山小屋で昼食の対応をしてくれるのも非常に有難い。

 15時過ぎから天狗沢の下見に出かけた。天狗沢への道は夏のお花畑沿いで案内板もあり迷うことは無いが、大きな岩のガレ場の通過となる。ここで天狗沢を下ってきた男性二人組み、奥又白池を出発、A沢を登って前穂から奥穂経由で下って来たとのこと。穂高連峰にはいろんな楽しみ方がある。
 テント場に戻って隣にテントを張った男性と話をして偶然に驚いた。昨日のパノラマコースでの骨折事故現場で救援が来るまで現場に残った一人だった。あれから女性はヘリで救出されたが待ち続けている間残った登山者とヘリが来ないときの搬送方法について話し合ったという。ヘリで救出後涸沢に入り、なんとか寝るスペースのある場所でテントを張り、今日奥穂から前穂に縦走して岳沢に下ってきたと行程を話してくれた。自分の山行を話すと涸沢に居て奥穂、ジャンダルムを目指すのにわざわざ岳沢に回ったのを珍しがられた。確かに、テントを背負って奥穂高岳に登り、空身でジャンダルム往復が普通だろうが、夏の後立山連峰テント縦走に比べて穂高連峰の+300mの高度が今の体力では自信がもてず今回はベースキャンプ型登山にしたのだった。彼には予備日用のオレンジを喜んで受け取ってもらえた。

 夜、上のテント場で打ち上げ会をするグループがいて、山の歌から昔のフォークソングなど何と賑やかなこと。その影響か下のテント場からは大きな話声とバカ笑い、涸沢でも徳沢でも19時を過ぎるとこんなことは無かった。打ち上げをやってる人たちは混雑する涸沢に下りたとしても打ち上げをやるのだろうか?下のテント場からの大きな話し声は20時に止んだ。上のテント場の打ち上げは20時半過ぎにお開きになったようでやれやれと思っていたところ、21時を過ぎてまた歌声が、テントの中で余韻で歌い続けている。テントを出て静かにしてもらうように頼みに行ったが、これがよくなかった。テントに戻って息が切れて咳き込みはじめた。周りに迷惑にならないように咳を止めるのに苦労し直ぐには寝付けなかった。

10月8日(月)
快晴

岳沢キャンプ地

天狗のコル

ジャンダルム

奥穂高岳

前穂高岳

岳沢キャンプ地

パノラマ写真
 コブ尾根の頭
 ジャンダルム
 馬ノ背ロバの耳間
 奥穂高岳
 紀美子平
 前穂高岳

※天狗沢−天狗のコル−奥穂高岳間は最小限の整備しかされてなく、登山初級者のみで簡単に登れるコースではありません。
 夜2時過ぎに目が覚めた。空には星が煌めいている。とても冷え込んでいるようでフライシートは内も外も凍り付いてガリガリ。起きるにはまだ早く明け方は更に冷え込みそうなのでシュラフの上に上半身はダウンジャケット、足元にはフリースを巻いた。これが効いてシュラフの中はポッカポカになり直ぐに眠り込んだ。
 4時半に目が覚めた。コーヒーを沸かしパンの朝食をとるが、他の皆さんは下るだけなのか、この時間帯に活動を始めたテントはなかった。昨日下山者から登山道の雪はそんなには影響ないとの情報は得ていたが、風は無く冷え込んでいるので念のために軽アイゼンをサブザックに入れ、頭にはヘッドバンドの上にヘルメットをして岳沢小屋に下った。小屋の前には昨日あった奥穂高方面の注意情報の掲示は無く、トイレを済ませて5時半に出発した。
 薄暗い中ヘッドライトの灯を頼りにガレ場を登っていく。6時半ごろ天狗の頭に朝日が当たり始め、登山道にも明神岳からの朝日がさし始めた。この付近の登山道は56のコルへ登った時と同じで急なガレ場、ただ岩はさほど大きくは無くペンキマークがあるので心強いが、足場の悪い急傾斜で緊張を強いられる登りであることには違いは無い。ペンキマークを目標に浮石に注意しながら慎重に登って行く。
    
   朝日のあたる天狗の頭と明神岳から上がる朝日

 天狗のコル直下から見上げる天狗の頭は垂直に聳え立ち凄い迫力を見せる。コルまであと一息のところ、急なザレ場は足元が悪い。慎重に登って7時半に天狗のコルに到着し休んでいると西穂に向かう3人の縦走者が下ってきて、休むことなくそのまま天狗の頭に向かって垂直に近い岩場を登り返していく。登ってきた自分と下ってきた人と疲れ具合の違いだ。
           
   左:コル直下、聳える天狗の頭   右:コルから天狗の頭へ登る登山者

 コブ尾根の頭まで傾斜のきつい主稜線をペンキマークを辿っていく。途中鎖場やペンキマークの薄い場所もありルートを確認しながら慎重に登っていくが、天狗沢に比べ足元が安定しているだけ歩きやすい。

  稜線上にて明神岳から霞沢岳、西穂高岳、笠ヶ岳までのパノラマ

 コブ尾根の頭までの稜線で10人近くの縦走者とすれ違った。中にはサブザックを背負った当方に驚いたようでどちらからと尋ねられ、岳沢小屋から天狗沢を登ってと答えると、次に雪渓はと聞かれた。天狗沢のコースに人が少ないのは奥穂西穂間縦走路のエスケープルートと急傾斜のガレ場というイメージに加えて沢に遅くまで残る雪渓も理由になるのかもしれない。
 稜線を登る中で前穂から霞沢岳、西穂高岳までの展望が開けた場所があった。上高地に向けて岩稜があるのでここが畳岩尾根の頭かなと思った。
  
   稜線上から上高地側のパノラマ(中央の岩稜から畳岩尾根の頭?)

 コブ尾根の頭まで登って初めてジャンダルムが姿を見せた。ここでいきなり現れるジャンダルムは、前穂高岳や明神岳を従え堂々と構えた盟主奥穂高岳、その頂を目指す登山者の前に立ちはだかる護衛兵(前衛峰)、まさに”ジャンダルム”だ。頂上にいた登山者が下ってきて入れ替わりにジャンダルムに飛騨側に巻いて登る。憧れのジャンダルムで天気にも恵まれ360°のパノラマを独り占めだ。
  
   コブ尾根の頭にて奥穂高岳を目指す者の前に立ちはだかるジャンダルム

    
   ジャンダルムからの奥穂高岳と槍ヶ岳

 ジャンダルムからは登ってきた道を下り、上高地側の狭い岩棚をトラバースしてロバの耳へと向かう。ロバの耳は直下の一枚岩を高巻きして大きく飛騨側に下り、岩棚の長いトラバースを経てロバの耳のコルへ下っていく。高度感たっぷりの緊張が続く。コルからはザレた急傾斜の道を稜線に向かって登り返す。稜線に出ると最後の難関馬の背だ。ナイフリッジの馬の背を登りきってようやく緊張の続いた登りが終わった。振り返ると男性二人の登山者が勢い良く馬の背を登ってきている。 すれ違う縦走者ではなく、追ってくる登山者に初めて気づいた。
           
   左:ジャンダルムへの登り    右:ジャンダルムは上高地側の中腹を巻く

           
   左:ロバの耳は直下の岩を高巻き 右:岩棚をトラバース後コルへ下降

           
   左:コルから稜線へ登り返す   右:最後の難関 馬ノ背

  
   振り返ってみるロバの耳とジャンダルム

 10時半過ぎに登山者で賑わう奥穂高岳山頂に着いた。追ってきたのは地元の高校生二人組で、何と6時に上高地を出発し同じ天狗沢を登ってきたとのこと、元気に溢れている。ほどなく来た道を下っていったが、気をつけて欲しい。
  
   奥穂高岳山頂から上高地方面の眺め

 快晴の空の下、山頂からの素晴らしい眺めとジャンダルムを踏破した満足感、これから先の岳沢への下りは2度目という安心感でのんびりと1時間近く過ごして紀美子平に向けて吊尾根を下った。紀美子平まで上高地側を眺めながらの下りとなるが、途中北穂高岳から涸沢、前穂高岳まで展望できる場所に出た。岳沢テント場の隣の男性登山者が言ったように、涸沢に居てここまで来るのに岳沢に迂回することはまず考えないのも当然と思った。
 吊尾根で若い男女ペアを追い越した。女性は疲れ果てたようで男性が女性のザックを抱え込んで歩いている。登山は厳しいが、こういう時ほど優しさも表れる。
  
   吊尾根にて涸沢側の展望、カールの底に見えるのが涸沢ヒュッテ

  
   吊尾根にて岳沢側の眺め、右に奥穂高岳

 12時半に紀美子平に到着、このころより西穂高岳の向う側に雲が湧き出していた。前穂高岳山頂に着いたときには湧き上がる雲は更に大きくなって槍ヶ岳は雲で隠れていた。奥穂高岳山頂で少しのんびりし過ぎてしまった。山頂を北尾根側まで行くと奥又白池まで見渡せた。奥又白池にはいつかこの時期に行ってみたいが、その時は56のコルは通らず徳沢から日帰りになるだろうと思った。重太郎新道の下りで県警のヘリコプターがホバリングを始めた。遭難者が出たようで大事ないことを願った。
    
   左:前穂高岳山頂から見る奥又白池  右:重太郎新道でホバリングするヘリ

 16時前に岳沢のテント場に無事到着、岳沢を拠点に天狗沢から奥穂高岳への周回は天気にも恵まれ歩き応えと見所が一杯のコースだった。吊尾根で追い越した男女ペアも小屋に下ってきた。女性の疲れは少しは回復したようで、涸沢から北穂経由で今日中に帰らないといけないのでと前穂はスルーしたようだけど元気そうに話してくれた。涸沢を出発して穂高連峰の3000m峰4座を一日で回って帰るという計画、1座を諦めたのは涸沢の混雑で十分に睡眠を取れなかったこともあるんだろうが、穂高にはそれぞれの登山者にいろんな楽しみ方があり奥深く素晴らしいところだとつくづくと思った。

10月9日(火)
快晴

岳沢キャンプ地

上高地

沢渡駐車場

北九州
 今朝も快晴、上高地に下るだけなのでのんびりと過ごす。朝食は棒ラーメン、結局3食分余ってしまった。7時半に二日間お世話になったテント場を離れ小屋に下る。この時間だともう小屋の前に登山者はいなかった。小屋にお世話になりましたとつぶやいて岳沢を下った。
    
   左:テント場からの上高地の眺め  右:岳沢小屋

 岳沢からは自分にとって未踏の西穂高岳から天狗の頭の山並みが青空に映えて見えた。この素晴らしい景色に、必ずまた来るよと、このルートもいつか歩いて見たいとの思いが強くなった。
  
   岳沢から見る西穂高岳から奥穂高岳、吊尾根の山なみ

 岳沢からかなり下った樹林の中でニホンザルの親子に出くわした。母猿はこちらを気にも留めずに無心にきのこを食べるその背の影から子猿がこちらを不安そうに見つめている。可愛らしい姿だ。この先の厳しい冬に十分備えて欲しい。
    
   左:キノコを食べる母猿とその子猿   右:上高地から見る岳沢と奥穂高岳、

 上高地に9時半に到着、上高地アルペンホテルの午前の外来入浴時間に余裕で間に合った。お風呂は貸しきり状態でお風呂からのんびりと穂高を眺めることができた。昼食は河童食堂で山賊定食、ここでも穂高を眺めながらの食事で穂高尽くしの山行を終え、帰途についた。途中、安曇野のりんご直売所に立ち寄り、シナノスイートを買い込んだ。甘くて美味しいりんごはこの紅葉の時期の安曇野での最適なお土産だと思う。


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